嶋恭作の裏45年史

この話はフィクションであり登場人物とエピソードは全て架空のものです

第46話:ZZの伸び問題と福長社長

ロータスエリーゼ にも搭載されたZZエンジン

第28話や第33話に登場した記念すべきトヨタチェーン回帰第一号エンジンZZ(実際の発売は初代プリウス用NZの方がちょっと早いが開発経緯からするとZZが先)だが、発売数年後の2001年頃にチェーン伸びクレームの発生でトヨタから何回も呼び出された。第33話で書いた様に同時に発売になったSZエンジン(他社サイレントチェーン使用)も伸び問題を抱えていて、こちらの発生頻度から比べれば桁違いにZZの方が少なかったのだが、トヨタ初の05Eチェーンエンジンという事で神経質になっていたかもしれない。恭作はちょうど技術部長になった頃だったのでツバキ側の責任者としてその件で毎月の様にトヨタを訪問していた。何故かこの話は当時橋本知恵院の7代目社長の福長さんの耳に入り、その毎月のトヨタ訪問定例会に福長社長まで参加することになってしまった。

これは小宮崎さんが帰国して自動車の事業部長(役員)になり、役員会での報告によって社長の知る所となったようだが、第35話で書いた様にベルト→チェーンがほぼ完全勝利に終わる事が見えてきた時で、その最も影響力のあるトヨタのZZエンジンにケチがついてはいけないと福長社長は危機感を感じて参加する事にしたそうだ。後に恭作が役員になってから福長社長から直接聞いた話だが、当時大阪市内から京都府の京棚部市に本社工場を移転したのだがリーマンの影響で売りと買いのタイミングにより多額の借金(通常より倍-数100億円レベルの話)を抱えていたそうだ。ちょうど自動車のチェーン化により急成長、高利益が期待出来たので何とかなると踏んでいたのだが、その最大顧客にケチがついては経営(会社存続)の危機だと思われたとのことだった。

相手がトヨタと言えども最も上でせいぜい課長級しか出て来ない、しかも技術打ち合わせ会議に一部上場企業の社長が毎月参加するなんてあり得ないし、こんな事は橋本知恵院100年以上の歴史の中でも無かった筈だ。流石にトヨタ側もビビって役員秘書室の美人のお姉さんが毎回お出迎えと会議室までの案内をしてくれた。

結論として使われ方(スーパーカー:近場のスーパー等に買い物に行くだけのクルマ)とそれに応じたエンジン側の問題(ブローバイガス換気システムが不十分で、チョイ乗りを繰り返すと想定以上の水蒸気が水となってエンジンオイルに混ざり、チェーンのブシュが腐食するというメカニズム)ということになり、この定例会はフェードアウトしたが、少なくとも半年位は社長が参加し続けてくれた。その後(社長のフェードアウト後)トヨタ側のリーダー格の人がどうしても橋本知恵院側に責任があると押しつけたくて散々イチャモンをつけてきたので恭作はここでも大喧嘩をしてしまった。幸い向こう側の犬の遠吠え的な話で問題にはならなかったが。(社長の参加は少なからず影響があったのだろう)この件で福長社長は恭作の尊敬する先輩の3人目となったし、この2年後の突然の役員昇格の布石でもあったのだろう。